イオンカップ
世界新体操クラブ選手権
大会 2005
2005.10.28~30 東京・東京体育館
新体操界のシンデレラ
世界19カ国から20のクラブチームを集め、世界新体操クラブ選手権イオンカップが東京で開催された。今年はアゼルバイジャンで行われた世界選手権から間がないこともあり、世界選手権出場選手がそのまま移動してきたようなそうそうたるメンバー。中でも先の世界選手権の新女王、オルガ・カプラノワ(ロシア)の来日は大会に大きな花を添えた。
オルガ・カプラノワ。彼女の名前を知っていたものは果たしてどれほどいただろうか。
一時代を築いたカバエバが活躍していた頃も勝利は収めていたが、偉大なスター選手たちの影にあってその存在は周知されていなかった。
恵まれたプロポーションとカバエバをしのぐ柔軟性、それに基づく高難度の技の数々、彼女はそれらをもって華々しくも鮮やかに、新女王の座を手に入れたのだ。その姿は「新体操界のシンデレラ」と称された。
今大会の見所は、新女王を擁するロシアのガスプロムとベッソノワを擁するウクライナのデルギナスクールのクラブ対決。
オルガ・カプラノワ (RUS)
高難度の技を繰り広げるカプラノワと、音楽と動きの美しさが特徴のベッソノワ。この二人の構図はそのまま両国の目指す新体操を端的に表している。
ルールブックにのっとった難度を追求するロシアと伝統的バレエの動きを重んじ曲とともに感情をも表現するウクライナ。かつては同じ大国にありながら、その方向性は今や全く違ったものになっている。近年の勝敗はロシアに軍配が上がっているが、印象は別問題のようであり、日本でのベッソノワの人気はとても高い。
ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、ブルガリア、ベスト4はこの4ヶ国にしぼられた。
今大会は各選手ミスが多く、カプラノワも手具を二度落とすミスを出した。それでも新女王の所以である柔軟性からなるハイレベルな難度、そして難度の羅列を感じさせない芸術性の高い演技には、観客、審判からの評価は高く、終始首位を守りきり、イオンカップ初優勝を遂げた。
2位には同じロシアのベラ・セシナが入った。
ベッソノワは優雅且つダイナミックな演技で会場を沸かしたが順位は3位。しかしウクライナの新体操は、観客には十二分に表現された。
大会終了後、エキジビションとしてベッソノワは「白鳥の湖」を披露。見るものを魅了した。
「私は新体操選手でありながら、バレリーナであることを感じた。私の演技は「この技」というよりも、全体の構成や音楽をあわせて一つの物語を作っているので、そういったものを見て欲しい」
それがウクライナの目指す新体操。
「新体操とはこういうものだ、というものを見せてくれた」と、コーチは満足げだった。
クラブチーム戦もロシアのガスプロムの優勝、ジュニア部門でもロシアのカナエワが大会三連覇、結果、クラブチーム、シニア、ジュニアと全てにおいてガスプロムが制覇した。
この強さの土壌についてロシアのコーチは語った。
「ロシアにはプロフェッショナルなコーチがたくさんいる。そういった人たちが育て集めたのが私達チーム。同じレベルのベンチウォーマーがたくさんいるし、だからこそ空白なく前の選手の地位を引き継ぐことが出来る。ロシアには「勝者は勝者である」ということわざがある。彼女達は一位となった。そのプログラムはルールブックに入るもの、難度、アーティスティックが入っていて、今日のFIG(国際体操連盟)ジャッジによって判断されたものだ」
優勝したロシア、ガスプロム。左からカナエワ、カプラノワ、セシナ
前女王カバエバのイオンカップ5連覇について、「私も頑張って達成できるようにしたい」と語ったカプラノワ。コーチは「勝っても三回くらいね」と茶々をいれて笑いを誘う。
冗談の中にも新体操に対する鋭いまなざしがそこにはあった。
ロシアとウクライナ、政治においても全く別々の道を歩き始めているが、新体操界においても同様のようである。
美の追求、もっとも芸術に近いスポーツ、新体操。果たして両者の行く道はいかに? フロア上でも、フロア外でも、女達の熱い戦いは繰り広げられているのである。
<Text/Photo Miwa MORI>